片山異郷  nicht schlecht

『DEAD MAN』(邦題:デッドマン)  
製作:1995 アメリカ 監督・脚本:ジム・ジャームッシュ 音楽:ニール・ヤング 出演:ジョニー・デップロバート・ミッチャム/ミリー・アヴィタル/ゲイリー・ファーマー /ピーター・シュラム/イギー・ポップビリー・ボブ・ソーントンスティーヴ・ブシェミ

オダギリ・ジョーが好きだといっていた。映画に関して信頼を寄せているドイツ系の友人が好きだといっていた。監督はジム・ジャームッシュだった。主演はジョニー・デップだった。もう見るしかなかった。
この映画の感想にはやたらと「ポエトリー」「コミカルな」だとかが多い。これらの言葉は「スタイリッシュ」と並んでほんとうに何も言い表してはいない。映画において、「ポエトリー」の記号は「ポエトリー」という記号しか生まない。ぷっちょを一気にたいらげてしまったみたいに空虚だ。だからここから分かることはなにも分からないということ。しかしそれだけに後からじわじわ効いてくる。「温泉か!」。それが名湯の定義。分かる分からないは決して問題ではない。この映画はポエトリーな…、と抽象をさらなる抽象で覆っていくのは気持ちが悪い。二回目だ。なんの疑いもなしにみんながマンガの始まりは鳥獣戯画と言う世界が気持ち悪い。だから吐こう自らを、押切もえっと、オェっと。
独りで異郷にいる感覚というのはなんとも奇妙だ。以前から進行中の映画の中に突然ぽんと役ももたずに投げ込まれたように、どこにも繋がらない。物語は自分と関係なしに進行していく。自分の関係ないところで自分の話が進んでいく。自分の知らない自分が増殖していく。ここにいるはずの自分が消えていく。気づけばもう自分はすでに消えていた。
この映画を観ながら即興で弾いたという逸話のあるニール・ヤングの音楽がなければ、きっと多くの人は寝てしまうだろう。