谷原章介に死角なし

あわれ彼女は娼婦
作:ジョン・フォード 演出:蜷川幸雄 出演:三上博史深津絵里谷原章介瑳川哲朗石田太郎中丸新将立石凉子/梅沢昌代/高橋洋有川博月影瞳/たかお鷹

愛に種類があるとしたら、その愛に纏(まつ)わる感情の機微を数え上げるとしたら、それは幾重になるだろうか。愛―その赤い糸に象徴される―連なりである連愛(れんあい)とは、血の交際に他ならない。その結晶(原石の方がbetterかなー)である純愛に死が伴わないはずはない。「世界の中心で、愛をさけぶ」、「いま、会いにゆきます」、また現存する最後の純愛の形式(のひとつであると感じるところ)、ホモエロティシズム。悲劇を措いて(純)愛は存在せず、その意味でも愛とは他ならぬ死をもって完成する。
そのカタストロフィーにおけるエントロピーの増大(なんですかこの表現は???)が重厚な演出と言い回しと共に、恋々と織り上げられていく。が、それは、今の鬱々―「欝」ではなく「鬱々」、「様」ではなく「さまさま」、「はい(返事)」ではなく、「はいはい(返事)」、不思議なことに文字は二つ重ねることによってその意味内容を劣化させる。では、「人々」はどうなのだろうか?―とした私には、その演じられる演出の重厚さがむしろ軽薄(チープ)に、その愛の誠実さが虚偽に感じられて止まなかった。いやきっと病んでいた。それも最後のシーンまでだった。あのラストはまさに今の私が希求していたひとつの答え。ニナガワ(作品の中)で一番に好きだ。だけど基本的にニナガワ(作品)は趣味じゃない。