蛸の足はポイ捨て

日の暮れるのが早くなるにつれて、私たちはいよいよしげく鍬を手にしたがったものだった。それで、そのとき私たち子供も、太い毛糸が[だらりと]垂れ下った針を目で追いかけながらもう一時間過ごしていた。[というのも]どの子供も、口に出して言うわけではなかったが、それぞれ刺繍の下地―紙の皿、ペン拭き、袋―をまえにして、下絵の線に沿って花を縫い取っていたのだ。そして、プツプツと小さな音をたてて紙に針を通していくあいだ、私はときおり誘惑に負けて、どうしても裏側を覗いてしまうのだったが、すると、その網目模様にぽかんと見とれずにはいられなかった。目指す花が表側でできあがっていく、その一針ごとに、裏の網目模様はますます紛糾の度を深めていたのである。
            〔『ベンヤミン・コレクション3』浅井健ニ郎ほか編訳、584頁〕