色色な赤

メモも兼ねて。光・色彩ゼミでウォン・カーウァイ映画の赤や、外国から帰国したときの鳥居の赤には、なにか「アジア」といったものを感じると言えば、教授から、漱石の『それから』のラスト、それを映画化した森田芳光の『それから』には、強迫観念といってもいいほど赤が使われている、との指摘を受け、ここに引用する。

忽ち赤い郵便筒が眼に付いた。するとその赤い色が忽ち代助の頭の中に飛び込んで、くるくると回転し始めた。傘屋の看板に、赤い蝙蝠傘を四つ重ねて高く釣るしてあった。傘の色が、又代助の頭に飛び込んで、くるくると渦を捲いた。四つ角に、大きい真赤な風船玉を売ってるものがあった。電車が急に角を曲るとき、風船玉は追懸て来て、代助の頭に飛び付いた。小包郵便を載せた赤い車がはっと電車と擦れ違うとき、又代助の頭の中に吸い込まれた。煙草屋の暖簾が赤かった。売出しの旗も赤かった。電柱が赤かった。赤ペンキの看板がそれから、それへと続いた。仕舞には世の中が真赤になった。そうして、代助の頭を中心としてくるりくるりと炎の息を吹いて回転した。代助は自分の頭が焼き尽きるまで電車に乗って行こうと決心した。
           〔夏目漱石『それから』新潮文庫、289頁〕

なんて真っ赤なんだ。
この赤のゆえんがはたして、日本やアジアの伝統色に由来しているのかどうかは、きっとそれについて発表してくれるであろう後輩を待つことにして、とりあえず、金がないにも関わらず、調子にのってマック用のマウスを改めて買った、私の財政もまた同様に真っ赤だ。

それから (新潮文庫)

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